カワイイわんことあの日の出会い
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R18!パートナーの男の娘獣人×クルーウェル先生R18小説です。
クルーウェル先生が過去に誰かに飼われていて、ニップルピアスを開けられたり淫紋を彫られたりした特殊設定あり。
ボクがデイヴィスと初めて出会ったのは、ボクが学生時代に働いていた店のオープン十周年を祝うレセプションパーティでのことだった。
セントラル駅の東側に位置する高級街区。その中心部に店を構える「キトン・ブルー」は、オーナーのローリーが世界中から集めたこだわりのアイテムのみを取り扱う完全予約制のセレクトショップだ。
生まれ育った町を離れ、複数のアルバイトを掛け持ちしながら芸大の夜間コースでファッションデザインを学んでいた頃。ある日突然、ボクのマジカメを見たローリーがDMで声をかけてきた。正直に言うと、最初は詐欺かなにかだと思った。当時のボクは特にこれといった実績もないただの学生で、知り合いもいなかったし。でもバイトや課題に追われて気が狂いそうになっていたところに何度もお誘いのDMを送ってくるもんだから、話だけでも聞いてみるかと彼女の店を訪ねてみることにした。
その結果、ボクは店の前で呆然と立ち尽くすことになった。確かにボクは自分で地図アプリに住所を入力し、その検索結果に導かれるまま目的地までやって来た。でも寝不足で頭がぼんやりしていたから、店がどんな場所にあるかちゃんと確認していなかったんだ。
路上生活者もハーブの甘い匂いをさせた人もいない、明るく清潔な通り。そこには古着屋やタトゥーショップではなくギャラリーやブランドショップが立ち並ぶ。コーヒーを片手に道を行く人々は、みんなそれぞれの生活を楽しんでいるように見えた。
白を基調とした美しい建物の大きなショーウインドウに映る、疲れた顔とボサボサの尻尾。肩まで伸びた髪に艶はなく、リップクリームすら塗っていない唇は乾燥してカサついている。おまけにそのときの服装ときたら、バイトで指定されていた白いシャツと黒いスキニーにカレッジパーカーを羽織っただけ。バイト代を貯めて買ったお気に入りのブーツの爪先は、泥が跳ねてくすんでいた。
ボクってこんなにダサかったっけ?
そのとき急に我に返ったというか、自分がこのキラキラした世界に紛れ込んでしまった異物みたいで惨めになったというか。とにかく心がぐちゃぐちゃになって、ボクはその場で突っ立ったままポロポロ泣きだしてしまった。
「ホント、あのときはビックリしたよね」
「も~! ローリー、その話はやめてってば!」
今でも定期的に蒸し返されるボクの号泣事件。あの後ボクは驚いた顔で店から飛び出してきたローリーに手を引かれ、店の二階にある彼女の家に連れて行かれた。自分の店の前で大泣きしている小汚い獣人に、彼女もさぞかし戸惑っただろう。しかし彼女は何も聞かずに温かいカモミールティーを淹れると、ボクが落ち着くまで黙って手を握っていてくれた。そんな風に大人に優しくされたのは、生まれて初めてだった。
その日をきっかけに、ボクは掛け持ちしていたバイトを辞めて、ローリーの店で働き始めた。「あなたの作品に興味がある」と連絡してきた彼女が、店にボクの作品を置くだけではなく会ったその日にボクを雇おうと決めた理由はわからない。でも心から感謝している。大げさじゃなく、あの日ボクはローリーに命を救われたと思っているから。
だから卒業して自分のブランドを立ち上げた今でも、彼女に頼まれればいつでも店を手伝いにいくようにしている。
◇◇◇
十周年を記念したパーティは、ローリーの店の近くにあるバーを貸し切って行われた。
パーティのテーマは仮面舞踏会。ゲストたちは、バーの入り口で好きな仮面を受け取ってから入場してくる。素材もデザインも様々なその仮面は全て、ローリーと親交のあるアーティストたちによって作られたものだった。
この日にむけてボクが作ってきたのは、黒い牛革をレースに見立てて細工したアイマスク。レザーのアイマスクと聞いたときに多くの人が思い浮かべるのは、おそらくSMのプレイで使われるような硬質でつるりとしたものだろう。だからこそ、あえて革の柔らかさを生かした繊細でフェティッシュなものを作ることにした。大胆でいながら繊細で、柔らかいのにかっちりと着用者の目を拘束する。そんな相反した特性を全て内包し融和させるレザーという素材が、ボクは大好きだった。
自分で作った仮面をつけて、パーティ会場へと足を踏み入れる。ボクが頼まれたのは仮面の制作と会場の設営補助なので、開場したらゲストとしてゆっくりしてくれとローリーから言われている。しかしパーティの参加者はみんな彼女の店の常連客やファッション業界の関係者。そう気を抜いてばかりもいられない。作品マスクもあるし、営業をするにはもってこいのイベントなのだ。
パーティのための装いとしてこの日ボクが選んだのは、黒い総レースのボディースーツ。学生時代に同じ授業をとっていた珊瑚の海出身のデザイナーが立ち上げたランジェリーブランドのものだ。このボディスーツもその下に着けているシンプルなブラも、どちらも肌触りがよくて気に入っている。ボトムスにはヴィンテージの黒いワイドトラウザーズをあわせて、足元には黒いレザーブーツ。ネイルはローリーにもらったLE VERNISの08番で、唇にはMATTETRANCEのForbidden Love。ボクの作ったレイシーな仮面にあうフェティッシュなスタイリングを目指した。肩からはファーのストールをかけ、祝いの場に相応しいドレッシーさも忘れずに。昨日サロンでトリートメントをしてもらったアッシュグレーの髪はつやつやでふわふわ。そんな自慢の髪にあわせて、目元にはグリッターがキラキラ光るDiamond Dustを。
DJが流す音楽にあわせて、ピクピクと耳が動く。外はもうすっかり暗くなり、最初は人もまばらだった店内も段々と賑わってきた。そんな中を人混みをかき分けるようにして店の奥へと進んで行けば、見知った顔から次々と声をかけられる。
「久しぶり、アッシュ。見て! あなたの仮面着けてみたんだけど」
「ケイティありがと! すごく似合ってるし今日の口紅にもあってる~!」
「アッシュ~~~! その服可愛い! どこのやつ?」
「これ友達のブランドなんだ! あとでマジカメに載せるね」
ブランドを立ち上げる前から個人的にオーダーを受けていた彼女たち。モデルのケイティがマジカメ上でボクの作ったカバンを紹介したときには、ウェブサイトから一瞬で在庫が消えた。
「ハァイ、アッシュ! キミの仮面、とても素敵だ。おまけに着け心地も最高!」
「ありがと、ロドリゴ。でも尻尾は触っちゃダメ!」
さりげなくボクの尻尾に伸ばされた手を軽く叩いて、ニヤニヤ笑う相手を睨みつける。身長差のせいでどうしても上目遣いになってしまうので、きっとボクの怒りは伝わらないんだろう。コイツは所謂ボンボンで、学生時代に立ち上げたECサイトが大当たりしてからこの界隈を出入りし始めた。最近ボクが店番をしているときを狙って店に顔を出してはちょっかいをかけてくるので、とても迷惑している。
「キトン・ブルー」のお客さんたちが商品を手に取る姿を見ていればわかる。彼らはみんなファッションが好きで、思い思いの方法でお洒落を楽しんでいる。その服を身につけることでなりたい姿になれるからとか、口では説明できないけれどそのカバンを見た瞬間恋に落ちてしまったとか。そこにある理由や思想はそれぞれ違う。でもボクは知っている。馬車馬のように働いて「このカバンを買うために今月生き延びました!」と笑顔で帰っていく人がいることを。ボクたち作る側だってそうだ。もちろん手に取ってくれた人の喜ぶ顔を見ることができたら嬉しいが、ボクはボクの「好き」を突き詰めるために作品を作っている。
目の前のこの男からは、そういうこだわりのようなものが全く感じられない。全身流行りのハイブランドで固めたコーディネートは、確かにパーティのドレスコードを満たしてはいる。しかし彼にとってファッションコレは数ある遊びの一つにすぎないのだ。別にそれが悪いわけじゃない。理由や思想は人それぞれ。でもボクはコイツが嫌いだ。ファッションだけではなく、遊びの一環でボクにちょっかいをかけてくるのも腹立たしい。
店の一番奥にたどり着いてもまだ、ロドリゴはしつこくボクに話しかけてきた。色とりどりのボトルが壁一面に並ぶ、美しいバーカウンター。柔らかな照明に照らされたそこで美味しいお酒を飲むのを楽しみにしていたのに、聞きたくもない話を延々と聞かされれば気分も盛り下がっていく。壁の中央に設置された大きな鏡に映る、不機嫌そうなボクの顔。これだけ態度に示しているのに諦めないなんて、よっぽど空気が読めないか単なるバカかのどちらかだろう。もしかすると空気の読めないバカなのかもしれない。
これが外ならいくらでも「お断り」する方法があったが、今は大切な友人の記念すべきパーティーの真っ最中。揉め事を起こすわけにはいかない。そんなことを考えている間に、ロドリゴは馴れ馴れしくボクの腰に手を回しながらバーテンダーのアイザックに声をかけた。
「スプモーニと……彼にはキッスインザダークを」
ハァ? キッモ……と喉まで出かけた言葉をなんとか飲み込む。ほぼ初対面なのに勝手に人の酒を注文するのがあり得ないし、そこで恥ずかしげもなくキッスインザダークとか言っちゃうのがマジで気持ち悪い。しかもボクにアルコールオンリーのカクテル飲ませておいて自分はスプモーニって。いっそ一発ヤらせてくれと頼み込んでくるほうが好感が持てるレベルの不快感に、尻尾の毛がぶわりと逆立つ。もう無理。騒ぎになる前に一発殴って裏口から引きずり出そう。気遣わしげにこちらを見つめるアイザックに大丈夫だと目配せし、ボクは腰に回された手をひねりあげようとした。
「ここにいたのか、アッシュ」
喧噪の中で、聞き覚えのない低い声がボクの名前を呼ぶ。同時にふわりと鼻をくすぐるパルファムの香り。スパイシーで官能的なアンバーと温かく深みのある白檀が心地よいそれは、ボクの知らない誰かの香りだった。
振り返った先で、バーカウンターにもたれる一人の男。彼と目があった瞬間、ボクは雷に打たれたような衝撃を受けた。
襟足を刈り上げた白と黒のツートンカラーの髪。黒いタキシードに包まれた体躯は、よく鍛えられているのか細身ながらしなやかな筋肉を纏っている。白い前髪の下から覗く薄青色の瞳。磨き上げられたアクアマリンのように美しいその輝きを覆い隠しているのは、ボクの作ったレザーのアイマスクだった。
「ウォッカ・マティーニを頼む」
それだけではない。肩の部分が白いレザー地になったジャケットの下。そこで彼の肉体を縛っているのは、ボクがブランド立ち上げ後初めてのコレクションで発表した黒い牛革のボディハーネスだった。
ボクは思った。きっとボクは彼に身につけてもらうためにこれを作ったんだと。それは生まれて初めての感覚だった。こうやって誰かがボクの作品を纏う姿はこれまで何度も目にしてきたのに。彼に身につけてほしいデザインが、どんどん脳内に溢れてくる。ボクはまだ彼の名前も、マスクの下に隠された素顔も知らないのに。
「アッシュ」
もう一度、彼がボクの名前を呼ぶ。決して大きな声ではないのに、それは音楽や客人たちの歓談の声で賑わう店の中で不思議とまっすぐボクの耳に届いた。
カクテルグラスをつかむ、骨ばった手。彼はグラスを軽く掲げてアイザックに微笑みかけると、その香りを楽しむように息を吸いこんだ。
まるで映画のワンシーンを見ているかのようだった。
薄く開いた彼の唇がグラスの中の透明の液体を飲みくだし、白い喉が上下する。つられてボクがゴクリと喉を鳴らすと、薄青の瞳がアイマスク越しにボクを射抜いた。
ボクの視線に気付いた彼が、ふ、と小さく笑って目を細め、バーカウンターに飲みかけのグラスを置く。そして彼は僕に向かって両手を広げると、先ほどと同じ声色で短く「おいで」と言った。
その一言で、ボクの身体は何かから解放されたかのように軽くなった。隣でロドリゴが何か喋っているのも気にならない。気付けばボクは床を蹴り、彼の腕の中に飛び込んでいた。
「うちの仔犬が失礼を」
彼の胸元に顔を埋めたまま、頭上から聞こえる声に耳を澄ませる。
「……何だって?」
怒りの色を孕んだロドリゴの声。それを全く意に介さず、彼の手がボクの耳の付け根を優しく撫でる。
「コイツはどうも首輪を嫌がるので」
その擽ったさに身体を捩って顔を上げると、彼がボクを見つめながらトントン、と自分の唇を人差し指で軽く叩いた。
綺麗に切りそろえられた爪と薄い唇を交互に見比べ、彼の意図に気づく。
「だってボク、首輪は着けられるより着けたいタイプだもん」
そう言いながら、ボクは両手で彼のジャケットの襟元をつかんでグッと引き寄せ、噛みつくようなキスをした。
不意を突かれたように目を見張った彼の少しカサついた唇を、貪るように食む。一拍置いて、彼の舌がぬるりと口内に割り入りボクの舌を絡めとった。彼の手がボクの腰を抱き、不安定な体を支える。それに応えるように彼の首に腕を回し、ボクは口内でうねる彼の舌を追いかけた。
は、と息を弾ませて、彼の歯並びを確認する。ただロドリゴに見せつけるためのパフォーマンスだったはずなのに、彼とのキスはあまりにも気持ちよかった。さっきから彼の手がある腰のあたりがムズムズするし、舌はもうなんか温かくて優しい別の生き物になっちゃったんじゃないかって感じだし。
ボクたちは、キスを覚えたてのティーンのようにお互いを求めた。
長い口づけの後、名残惜しさを感じながら唇を離せば、彼の口の周りがボクの口紅で真っ赤に染まっていた。きっとボクの口元も酷いことになっているのだろう。ボクたちはお互いの顔をまじまじと見つめたあと、おでこをくっつけたまま笑いあった。
「……クソッ! 見込み違いだったみたいだよ」
「What the……ねえ今の聞いた!?何が見込み違いだよあの……」
捨て台詞のようにそう吐き捨てて、ロドリゴがその場から立ち去る。正直なところ、まだそこにいたのかって思うぐらいにはもうどうでもよかった。でもムカつくものはムカつくので、その背中に両手の中指を立てて見送ろうとしたところに聞こえた、プッと噴き出す声。それはもちろん目の前の人間から発せられたもので。彼がそのまま声を上げて笑い出したもんだから、ボクの怒りも一瞬で引っ込んでしまう。
「……すまない。その威勢のよさなら下手な助けは不要だったかと思って」
よっぽどツボに入ったのか、彼は目尻に涙を浮かべて笑う。笑った顔も可愛いなあ、なんて呑気にその姿を眺めていたボクは、彼の胸元に赤い口紅が付着していることに気がついて慌てて彼に駆け寄った。
「ごめん、口紅着けちゃった。クリーニング代出すから……」
口元はハンカチで拭えても、真っ白なシャツについた口紅はそう簡単には落とせない。お詫びをしようとクラッチバッグを開いた手を、彼の手が覆った。
「ああ、これぐらい。気にしなくていい」
「でも、」
「……どうしてもと言うなら、一杯付き合ってくれないか?」
優しい声でそう言われれば、断れるわけもなく。というか、断る理由がないし、まだ頭の九割ぐらいでさっきのキスについて考えていたボクにとっては正直願ったり叶ったりだった。
こんなボクの作品を着こなす好みの顔の男に出会える可能性が、今後どれほどあるだろう。おまけにキスの相性も抜群ときてる。この出会いは奇跡だ。彼が実はとんでもなく悪い男だったとしても、別にいい。彼ともう少し一緒にいたい。彼と言葉を交わして、彼のことをもっと知りたい。彼の身体を飾り立てたい。さらに欲を言えば、この男と一発ヤりたい。
「何か飲みたいものは?」
「うーん、ご飯食べてないから軽めのがいいから……キールにしようかな」
さっきあれだけ心の中でロドリゴをこき下ろしたボクだけど、もう少し理性がなかったらBetween the Sheetsとか言っちゃってたと思う。流石にそれは明け透けすぎるかなってギリギリのところで冷静になったボクを褒めてほしい。確かに僕は欲望に忠実なタイプだけど、いつだってお洒落で可愛くありたいのだ。
「では俺はロブロイを」
ウォッカ・マティーニを飲み干して、彼がそう注文する。ロブロイはスコッチウイスキーをベースにしたカクテル。
そのカクテル言葉は「あなたの心を奪いたい」だった。
◇◇◇
注文したカクテルを受け取ったボクたちは、店の隅で肩を並べて静かにお酒を楽しんだ。聞きたいことはたくさんあるのに、いざ彼と目が合うと頭の中がぐちゃぐちゃになって曖昧に微笑むことしかできない。見せつけるためにキスまでしておいて何を言ってんだって感じだけど、このときのボクは多分今まで生きてきた中で一番ナーバスだった。
どれだけチビチビ飲んでも、カクテルグラス一杯のお酒なんてすぐなくなっちゃうわけで。空のグラスをテーブルの上に置くと、ボクたちはどちらからともなく手をとって店を飛び出し大通りでタクシーを捕まえた。
タクシーの中でもボクたちは無言で、ラジオから流れるKari FauxのNight Timeだけが車内に響いていた。スマホでマジカメを開いたりもしてみたけど、なにも頭に入ってこない。ちらりと隣に目をやると、彼の美しい横顔が窓の外を流れる街の光に照らされていて、ボクはまたドキドキしながら手元に視線を戻した。
パーティ会場から彼の家までは思っていたよりもずっと近くて、彼は運転手に礼を言いながら「残りはとっておいてくれ」と多めにお金を渡して車を降りた。
大通りから一本奥に入った道に佇む、レンガ造りの建物。正面にあるオートロックの門を開き、吹き抜けになった小さな中庭を通り抜け、ボクたちはエレベーターに乗り込んだ。
彼の指が、八階のボタンを押す。相変わらずボクたちは黙りこくったままで、エレベーターの中はとても静かだ。隣に並んだ彼の横顔をぼーっと眺めているうちに、もしかしてボク一人がドキドキしているんじゃないかと思い始める。今日のボクは一体どうしてしまったんだろう。こういう
チン、と鳴り響いたベルの音で、ボクの意識は現実に引き戻された。綺麗に掃除された廊下に人の影はなく、ボクたちの足音だけが響く。エレベーターを挟んで左右に一枚ずつ並ぶ、赤いドア。その左側が、彼の住処であるようだった。
「お先にどうぞ」
「……あ、ありがと、って、わ!」
鍵を開け、ドアを引いてくれた彼にそう礼を言って玄関に足を踏み入れた瞬間。後ろからぐいっと腕を引かれて振り返る。バランスをとろうと一歩後ずさると、背中が壁にぶつかった。
バタンとドアが閉まる音。顔を上げれば、彼が目の前でボクを見下ろしている。
「……キスをしても?」
少し掠れた、囁くような声。この状況でそんな風に聞いてくるのは、ズルいと思う。ボクなんてタクシーに乗った時点で「今日のパンツどんなんだったっけな」みたいなことしか考えてなかったのに。熱のこもった瞳で見つめながらそんな風に聞いてくるのは、ズルいと思うんだ。
「あの、名前」
平静を装ってなんとか絞り出したその言葉を聞いて、彼は笑いながらアイマスクを外した。
「デイヴィスだ」
そう言って、彼――デイヴィスがボクの顔からアイマスクを外す。
「……だがデイヴと呼んでくれても構わない」
視界を縛っていたものを失い、初めて目にしたお互いの素顔をじっくりと見つめたあと、ボクたちはゆっくりと唇を重ねた。
啄むように何度も短いキスをしながらデイヴィスの首に腕を回すと、彼は軽々とボクの身体を抱き上げ薄暗い廊下を奥へと進んで行く。
ドサッと小さな音を立て、廊下の真ん中にボクのクラッチバッグが落ちた。思わず「失礼」と呟くと、デイヴィスが「気にするな」と言いながらその場で革靴を脱ぎ捨てたので笑ってしまう。
部屋の明かりもつけないままドアを開け、リビングを通り抜ければそこは寝室。キングサイズのベッドにボクを座らせたデイヴィスは、「さて」と小さく息を吐き、芝居がかった様子で「我が城へようこそ」と言うとベッドサイドに跪いた。
デイヴィスの手がボクの足をつかみ、片方ずつゆっくりとブーツを脱がせていく。
「……
脱がせたブーツをベッドサイドに並べたのを見てそう言えば、彼は胸に手を当てて「
「他は脱がせてくれないの?」
「……我儘な仔犬もいたものだ」
「しつけ甲斐があっていいでしょ?」
大きなベッドに寝転がり、デイヴィスの身体の中心を爪先でゆっくりと撫で上げる。彼はそんなボクを見て大きな溜め息を吐くと、額にかかった髪をかき上げながらボクの上に馬乗りになった。
「……ン、」
デイヴィスの舌が、その熱く濡れた肉片が、ボクの口内を犯す。同時に片手で耳の付け根を優しく撫でられて、ボクの身体の奥で燻る熱が温度を増した。
手探りでデイヴィスのジャケットのボタンを外し、その脇腹に手の平を滑らせる。するとボクに覆い被さったデイヴィスが耳元で切なげに息を漏らしたので、ボクは手を動かしながらボクに跨る足の中心を膝でグッと刺激してみた。
「……っは、」
わかりやすく揺れる身体と、咎めるような視線。白い前髪がボクの額を擽る。わざとらしく首を傾げて「
鼻先から頬、頬から鎖骨の下、鎖骨の下からお臍へ。デイヴィスがゆっくりと口づけを落としていく。ボディースーツ越しに感じる、少し濡れた唇と熱い吐息。ボクの腰のベルトを緩め、トラウザーズのボタンを外し終えると、デイヴィスはべろりとボクの臍に舌を這わせた。
「ァ……」
身を捩った拍子に、あっさりと引き抜かれていくトラウザーズ。抵抗するように伸ばした足も、デイヴィスの手に捕まってしまう。
「アッシュ」
名前を呼ぶ声に反応してピクピク動くボクの耳を見て、デイヴィスが喉の奥で押し殺すように笑う。出会ってまだ数時間しか経っていないのに、ボクは彼に名前を呼ばれることに対して喜びを感じるようになっていた。その証拠に、ボクの尻尾はさっきからシーツの上でブンブン揺れて止まってくれそうにない。こういうとき、自分の身体は不便だと思う。だってどれだけ格好をつけたところで、尻尾が全部バラしちゃうんだもん。
「……アッシュ」
デイヴィスがボクの右の爪先にわざとらしく音を立てて口づける。そしてそのまま足首に軽く歯を立てると、彼はボクの右足を自分の肩に担ぎ上げた。
ボクを真っすぐ見据えたまま、デイヴィスがボクの内腿に舌を這わせ、見せつけるように足の根元近くに強く吸いつく。何度も、何度もボクの肌に唇を寄せ、デイヴィスがボクの身体に印を刻む。動物がマーキングをするようなその行為に、ボクは眩暈がするほどの興奮を覚えた。
「……ッア、」
突然、デイヴィスの指がクロッチの部分を掠め、ボクの腰が大きく跳ねた。それに気づいたデイヴィスが、ボディスーツの中で下着を持ち上げるボクのモノを一撫でする。
「ひゃ、」
「可愛い鳴き声も出せるんじゃないか」
直接的な刺激に思わず腰を引こうとしても、足を押さえられているので身動きがとれない。それどころか張りつめた股座を見せつけるように腰を押しつけてしまって、ボクの口から情けない声が漏れた。
「
ボクの足を開放したデイヴィスが、プチプチとクロッチ部分のボタンを外していく。解放されたレース地の下。先奔りが滲んだ下着を引き抜かれると、透明の糸が内腿を伝うのがわかった。ボクはもうこんなにぐちゃぐちゃなのに、目の前のデイヴィスは未だにしっかりと服を着こんだままこちらを見ている。その涼し気な表情が気に食わなくて身体を起こそうとすれば、そんな動きはお見通しとでもいう風にデイヴィスがボクに覆い被さってきた。
「……おいで」
軽々とボクの身体を抱き起したデイヴィスが、胡坐をかいた膝の上にボクを座らせる。
「アッ、や、待って」
向かい合わせの状態で強く腰を抱かれ、デイヴィスの身体と触れ合うボクのモノ。腹につきそうなほど勃ち上がったソレには強すぎる直接的な刺激に、ボクの腰が大きく揺れた。
ぬらぬらと光る透明の液体が、デイヴィスのシャツやトラウザーズに染みを作る。身体を離したくても、見た目よりも力の強い腕はボクの腰をガッチリ抱きかかえたまま離してくれない。おまけにもう片方の手がボディスーツの下を這いまわっているものだから、ボクは盛りのついた犬みたいに腰を擦りつけることしかできなかった。
「ンあ、っや、デイヴ、」
終わりのない快感をどうにかして逃がそうと背中を反らした瞬間、背中を撫でていたデイヴィスの手がブラジャーのホックを外した。
ボクがずりあがったブラを押さえる前に、彼は露わになった乳首に歯を立て、舌で吸い上げる。ぴちゃぴちゃと音を立て、お腹を空かせた仔犬のようにボクの胸を吸うデイヴィス。さっきからやけに音を立ててくるのは、ボクたちが人間よりも耳がいいのをわかっての行動なんだろう。舐めて、吸って、甘噛みをして。汗と唾液で、レースがボクの肌にぴたりと張りつく。何度も丁寧に刺激を与えられたボクの乳首が細やかなレースの下でピンと立ち上がったとき、ようやくデイヴィスが顔を上げた。
お互い肩で息をしながら見つめあう。そのとき彼のトラウザーズの中で張りつめる熱に気がついて、ボクは彼を見つめたまま問いかけた。
「……デイヴは脱がないの?」
「俺は……」
それは彼が初めて見せた動揺だった。というより、「迷い」だろうか。獰猛な欲望の色を孕んだ瞳の奥で揺れた、それまでとは種類の違う熱。
「脱いで」
「……」
「……ボクが脱がせてもいい?」
デイヴィスが小さく頷いたのを確認して、タキシードのジャケットを脱がせていく。着痩せするタイプなのか、白いシャツに包まれた体躯には思っていたよりも筋肉がついている。思わず両手でペタペタと厚い胸板を触っていると、ボクの指先が服の下の硬いなにかに触れ、デイヴィスが小さく息をのんだ。
「……ふうん」
レザーのボウタイを緩め、逸る気持ちを抑えてゆっくりとシャツのボタンを外していけば現れる銀色。シルバーのピアスに貫かれたデイヴィスの乳首は、まだなにもしていないのに両方ピンと立ち上がっていた。
「もしかして、ボクの乳首舐めながら興奮してたの?」
は、とデイヴィスが息を吐く音がやけに大きく聞こえる。しかしボクはあえてそこには触れず、胸の中心から腹のあたりまで指先で真っすぐなぞってから彼の腰のベルトに手をかけた。
ジッパーを下ろしたときにゴクリと喉を鳴らしたのは、一体どちらだったか。
体温の上がって赤みが差した彼の下腹部。そこには傷跡のようにぼんやりと浮き出る白い刺青があった。
「なあに、これ」
そう尋ねながら、デイヴィスの身体に体重をかけ、背中からベッドの上に押し倒す。そうしてさっきまでのデイヴィスがそうしていたように彼の身体に馬乗りになると、ボクの腰を抱いていた腕が力なくシーツの海に沈んだ。
「……昔、彫られた」
少し掠れた、低い声。自分で入れたわけではないのかと思いながら、まだ身体につけっぱなしだったレザーのボディーハーネスを引く。
「ボクが聞いてるのは、これが「なに」かだよ」
「……し、子宮を」
「なんで?」
返事はない。まあこんな悪趣味な刺青を他人の身体にいれちゃう奴の考えることなんて、たかが知れている。
「……メ、メスに……俺は、」
デイヴィスの白い喉が、うまく息を吸えずに引き攣ったような音をたてる。
人間の脳というのは不思議なもので、それが暴力であってもうまく快感に繋げてしまえば肉体は勝手に興奮する。痛みと快楽は紙一重、なんて言葉もあるぐらいだ。
だから程度は違えど、加虐的であることや被虐的であること、もしくは他人を支配したり他人に支配されたりすることに興奮するの自体はそう珍しいことではない。
デイヴィスが生まれたときから
「違うよ、デイヴ。デイヴィス、聞いて」
オスとかメスとか、そんなラベルはどうでもいい。
デイヴィスの足から下着ごとトラウザーを引きずり下ろし、馬乗りになったまま鼻と鼻とがくっつきそうなほど近くで彼を見下ろす。
「デイヴィス、」
囁くように名前を呼べば、薄青色の瞳が揺れる。
「このハーネスを作ったのは誰?」
「……ッ、あ、アッシュ、」
デイヴィスの顔の横に片手をついたまま、二人分の勃ち上がったモノを握りこんでぐっと腰をグラインドさせる。
「このボウタイ首輪を作ったのは?」
「ア、ふ、アッシュ、ッ」
部屋の中に響く、二人分の荒い呼吸とベッドが軋む音。そこに混ざるくちゅくちゅと熱が擦れ合う音がなんとも卑猥で、興奮が増す。
「……じゃあデイヴ、今キミを抱いているのは?」
「ン、あ、」
デイヴィスの瞳がボクを映す。
続けて絞り出すように名前を呼ばれ、頭が爆発しそうなほどの興奮を覚えたボクはそのままデイヴィスの白い首に噛みついた。
「ッ、ア……」
その瞬間、デイヴィスの身体が大きく揺れ、ボクの手の中に熱い精が放たれる。
快感から悲鳴にも似た声を上げるデイヴィスの口に舌をねじ込み蓋をすれば、彼の身体がびくびくと震えた。
「……ハァ、ッ……デイヴ……いい子だね」
少し遅れてボクの尻尾がピンと立ち上がり、快感で頭が真っ白になる。途中まで脱がせたシャツも、黒いハーネスも、ボクたちの身体も。二人分の迸りで全部ぐちゃぐちゃ。
辺りに漂う汗と精液、そして彼のパルファムの匂い。肩で息をしながらドロドロになったお互いを見つめていたボクたちは、再びコツンと額をくっつけたまま笑いあった。
「水、飲むか?」
「……うん」
水を取りに立ち上がったデイヴィスの足から滑り落ちるトラウザーズ。アンダーウェアととレザーのハーネスだけを身につけた身体を惜しげもなく晒して歩くその背中をぼんやりと眺める。
本当にいい身体をしている。次のルックブックでモデルとして使いたいぐらいだ。
「ほら、」
「ありがと」
冷たいペットボトルを受けとって、よく冷えた中身を喉に流し込む。自分で思っていたよりも喉が渇いていたらしい。ゴクゴクと喉を鳴らして水を煽れば、じわりと汗をかいたボトルの表面から滑り落ちた水滴が僕の太腿をぴちゃりと濡らした。
「泊っていくか?」
「えっ……いいの!?」
「なんだその反応は」
「いや、なんか……勝手なイメージだけど、プライベートには干渉されたくないタイプかなって」
そう言ってから「ごめん、ちょっと嘘ついた」と白状する。
「この部屋、デイヴの匂いしかしないから……その……ごめん勝手に嗅いで……」
先程の情事のあとを除けば、この部屋にはデイヴィス本人の香りしか残っていない。流石に何週間も前の匂いを嗅ぎ分けることはできないが、ここ数日……いや、ここ一週間はデイヴィス以外誰も足を踏み入れていないはずだ。
それに気づくと、やっぱり気になってしまうわけで。遊びの関係でいちいち喜んだりしないけど、なんで今日はホテルじゃなくて家にあげてくれたのかなとか考えなくもないっていうか。いやそんな特別扱い? キャー! みたいにドキドキなんてしないけど。僕は賢くカワイイ大人なので、例えどんなに好みの顔で身体の相性も最高の相手とちょっといい雰囲気かもしれないと思っても、冷静さを崩したりはしない。たとえボクの尻尾が勝手にブンブン動いていたとしても、だ。
「……は、ハーネス外していい?これ、どうしてもって頼まれて自分の手元に残しておくぶんもあげちゃったんだよね」
黙って水を飲むデイヴィスと視線をあわせることができず、僕はヘラヘラ笑いながら彼のレザーハーネスに手を伸ばす。余計なことを言うんじゃなかった。こんなに空回りをするのはいつぶりだろう。
静かな部屋に金具が擦れる音だけが響く。随分前に作ったものだが、きちんとオイルを塗って保管されているようでとても状態がいい。それどころか、レザーによい味が出て発売したときよりも魅力的に見えるぐらいだ。
「大事にしてくれてるんだね、ありがと」
丹精込めて作ったものをこうやって丁寧に使ってもらえるのを見るのは、やっぱり嬉しい。ものづくりを続けていてよかったなと思うし、もっといいものを作りたいなとやる気も出る。
「……これを作った職人に会ってみたいと思っていた」
「え、へへ、職人だなんてそんな……」
「本当は話をするだけのつもりだったが、この手があの素晴らしい作品を生み出すのかと思うと触れてみたくなったんだ」
そう言いながら、ボクの指先にキスを落とすデイヴィス。ボクの頭はもう爆発寸前で、尻尾は千切れんばかりに動き続けている。
「あの、わかったから、そんなに言われるとほら、勘違いしそうになっちゃうから……」
「……勘違い?」
「え、あ、なんていうか、特別扱いされてるみたいで照れるな~ていうか」
段々と小さくなる声。全身が燃えるように熱いし、恥ずかしすぎて顔を上げることすらできない。
こんなダサいの、ボクじゃない。今すぐここから逃げ出したいのに、デイヴィスは握った僕の手を離そうとしない。
「……特別扱いしているつもりだったんだが」
その言葉で思わず顔を上げれば、優しい光を湛えたアイスブルーの双眸がボクをとらえた。
「……あ、の、デイヴ、」
「どうした?」
「……勃っちゃった……」
泣きそうになりながら正直にそう申告すると、デイヴィスはあっけにとられたようにまじまじとボクを見つめたあとで、声をあげて笑い始めた。
「ちょっと! そんなに笑わなくてもいいじゃん……」
「いや、悪い。 仔犬には少し刺激が強すぎたかと思ってな」
「も~~~! シャワー浴びる!」
「……バスルームならリビングを出て左側だ」
「……連れてって」
「
「仔犬には刺激が強すぎて立てなくなっちゃったから連れてって!」
ここまできたらもう恥など捨てるしかない。両手を広げてデイヴィスを睨みつければ、彼はごほんとわざとらしく咳をしてから恭しくボクの身体を抱き上げた。
「
ボクの身体を抱き上げたまま、デイヴィスはリビングを通り抜けてバスルームへと歩いていく。
バスルームのドアを開くと目に飛び込んでくる、温かなえんじ色の壁。その場でゆっくり下ろされると、黒いタイル張りの床がひやりと足裏を撫でた。
「……手を」
デイヴィスの手が、ボクの身体に残ったわずかな服をゆっくりと脱がしていく。唇に、触れるだけのキス。自身もアンダーウェアを脱ぎ捨てて、もう一度ボクを抱き上げたデイヴィスが白いバスタブの中に足を踏み入れる。
ボクの身体越しに聞こえる、ハンドルを捻る音。まだ少し冷たいシャワーの水が頭の上から降り注いできて、僕は小さく身体を震わせた。
「……ッ」
水の冷たさとは対照的に、触れ合う肌は熱い。触れ合った部分から溶けて混ざりあい、ボクたちは一つになる。
少し身を屈め、デイヴィスがボクの唇を食む。まるで言葉を忘れてしまったように、ちゅ、ちゅ、と何度も短いキスを繰り返せば、ボクの尻尾が溢れる歓びでムズムズと震えた。
「……洗ってあげよっか」
壁の棚に並んだボディソープを手にとると、ふわりと香るローズとカルダモン。ぬめりのあるそれを手のひらで泡立ててから、デイヴィスの背中に手を滑らせる。
シャワーの音に紛れて聞こえる心臓の音。人間にしては少し速いそれが愛おしくて胸元に頬擦りすれば、目の前で水に濡れたシルバーピアスがキラリと輝く。
「……ン、」
ツンと立ち上がった胸の先端を貫くそれに悪戯心を刺激され、ボクはデイヴィスの乳首をかぷりと口に含むと舌の先端で硬い金属をゆっくりなぞった。カチャリと小さな音をたてるピアス。ボクの腰に回されたデイヴィスの腕に、一瞬力がこもる。
ハ、とボクの耳を揺らす、デイヴィスの熱い息。舌での愛撫を続けながら、ボクは背中を撫でていた手を臀部に滑らせる。
「アッシュ、」
その中心の窄みを指先でなぞれば、デイヴィスが切なげにボクの名前を呼んだ。
「……んー……ボクも挿れたいけど……ゴムないし」
ボクを見おろしたデイヴィスが、水に濡れて張りついた前髪をかき上げる。流れ続けるシャワーの音。
「後ろ向いて」
ボクのお願い通り、ボクに背を向けたデイヴィスがバスタブの縁に手をついた。ほどよく筋肉のついた、しなやかな曲線を描く白い背中。その腰のくびれを抱き寄せるように腕を回し、彼の太腿のあいだに勃ち上がったモノを突き立てる。
「ここ、力入れて」
そう言いながら太腿を撫でると、デイヴィスの身体がびくりと震えて筋肉質な足がボク自身をギュッと挟み込んだ。
「そう、いい子」
デイヴィスの腰を引き寄せて、突き上げるようにゆるゆるを腰を動かせば、ボクの先端が彼のモノを撫でる。ぬるりと滑る、泡の残った身体。片手で腰を抱いたまま、もう片方の手を使ってデイヴィス自身を扱いてやる。
「……ッ、ハ、」
「ほら、力抜かないで」
正直に言えば、硬い太腿による刺激から得られる快感はわずかなものだ。直接的な刺激を上回る、視覚的な歓び。快感で崩れ落ちそうになるのを必死で耐えてボクに応えてくれるデイヴィスの姿は、ボクに得も言われぬような興奮を与えてくれる。
「ン……ッそろそろ、でそッ……」
全身が震え、全ての熱が下腹部に集まったような感覚を覚え――ボクは吐精した。どくどくとデイヴィスの内腿を汚すボクの熱。それを手にとり塗り込むようにして張りつめたデイヴィス自身を扱く手に力をいれれば、その背中が大きくしなった。人間よりも長い、僕の射精。どうしても目の前の身体から離れがたくて、ボクは熱を吐き続ける先端を擦りつけるように腰を揺らす。
全部ボクのにおいになってしまえばいい。ボク以外誰にもこの美しい生き物に手を触れてほしくない。全部、全部ボクのものだ。
「……アッシュ」
「……ッふ、あ、」
「……アシュリー」
バスタブの中に座り込んだデイヴィスに腕を引かれて、ボクはハッと我に返った。大丈夫、とでもいう風にボクの身体を抱きかかえ、頭を撫でるデイヴィス。うろたえながら顔を上げると、彼はそのアイスブルーの瞳を細めてボクの額にそっとキスを落とした。
「……ごめん、ボク、」
「
促されるままデイヴィスの足の間に腰をおろし、その身体に背中を預ける。
キュッとハンドルを捻る音。頭上から降り注いでいたシャワーが止まり、蛇口から水が注ぎこまれる音に変わる。
「明日の予定は?」
「ボクは特に。午後からアトリエにこもろうかなと思ってたぐらいかな」
「……ついて行ってもいいか?」
「え、特に面白いものなくてもいいなら……」
「お前がなにかを作っているところを見てみたい」
じわじわとせり上がってくるお湯を手で掬いながら返事をしていたら、デイヴィスが肩口に顔を埋めてそんなことを言い出したので驚いた。本当にボクの作品が好きなのか。さっきも褒められたけど、半分ぐらいはベッドの上のリップサービスだと思って受けとっていた。
上半身だけで振り返ると、わがままを言う子供みたいな瞳がボクを見つめていた。先程までの熱のこもった瞳とは全く違う、少しばつの悪そうな、それでいて期待に満ちた青色。
今まで仕事以外で他人をアトリエに入れたことはない。しかし惚れた相手にこんな表情で見つめられて、誰が断れるだろう。
「いいよ。じゃあ明日モデルやってよ。キミに身につけてほしいアイデアがいっぱいあるんだ」
鼻先にちゅっとキスをして、クスクス笑う。
こうしてボクは、ボクにとっての「特別」と出会った。
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