笑わないでね
Caption
(160501) #冨樫夢ワンライ ( @togashi_dream ) 『笑わないでね』
私は嘘がつけない。
騙し合いが当たり前の世界で生きている人間としては致命的なのだけれど、たまにアジトを出入りする変な奇術師にまるで可哀想なものを見るかのような視線を向けられる程度には嘘がつけない。
「お前最近よく団長と一緒にいるよな」
「えっ、そうかな」
だから部屋で本を読んでいたノブナガに突然そう話をふられて声が上擦ってしまうのは当然のことで、ノブナガがそんな私にじっとりとした視線を向けるのもまた仕方のないことだった。
「なんかやましいことでもあんのか?」
「えっ、ない! ないよ!」
全身から冷たい汗が噴き出る。こんなのは冷蔵庫に入っていたシュークリームを黙って食べたらフェイタンのだったあの日以来の感覚だ。
だってまさかフェイタンがシュークリーム食べるとは思わないじゃん。あんなチゲ鍋顔して。
「今ならまだ間に合うぞ」
「なにが!?」
読みかけの本を床に置いたノブナガがじりじりと距離を詰めてくる。寒いからとドアを閉めていたお蔭で逃げ場はなく、私は視線を泳がせながら壁際へと追い詰められていく。
ノブナガと私は付き合っている。仕事相手として出会い、同じ得物を持つ者同士で仲良くなって、なんやかんやで随分と長い間一緒にいる。最初こそ幻影旅団なんてとんだ貧乏くじ引かされたもんだと思っていたけど、今ではマチたちと普通に遊びに行くようになったので人生とは分からないものだ。その代わり仕事は破格の値段で提供する羽目になっているんだけど。
私が彼らのテリトリーへの出入りを許されているのはあくまで私が彼らの役に立つ人間で、なおかつ彼らを脅かすほどの力もないからだ。いくら泊りで飲み会をする仲だとはいえマチやパクノダはその必要があればいつでも私を殺すだろう。っていうか未だに機嫌の悪いシャルやフィンクスがストレス発散のために絡んでくるので必要なくても殺されるのかもしれない。まあできればそうなる前に逃げたいなとは思っている。
ノブナガは旅団員の中では珍しく人間味があるタイプだ。いや、でも必要があれば私を殺すとは思うんだけど……一旦そういう物騒な視点で物事を見るのをやめよう。ノブナガは感情表現が豊かで、ちょっと抜けているところもあるがそんなところも好きになった要因の一つと言える。なにより一緒にいて楽なのがいい。お蔭で今まで特に喧嘩をすることもなく(三回斬り合いはしたけど)、今までやってきた。
しかしその平穏な日々が今日で終わりを迎えてしまうかもしれない。何故なら私は嘘がつけないからだ。
「十秒やる」
「ちょっと待って」
もしかしなくてもクロロとの不貞を疑われているのか。冷静になってほしい。あのクロロだぞ。引く手数多のあの男がわざわざこんな女に手を出すと思っているのか。あ、ちょっと自分で言ってて悲しくなってきた。
「わ、笑わないでね」
『誕生日おめでとう』たどたどしく言葉を紡げば、ノブナガがキョトンとした顔をする。そのワンフレーズを綺麗に発音できるようになるまで三日かかった。つくづく私は言語学習に向いていない。というか私は読み方だけ教えてほしかったのに、クロロが「どうせなら読み書きできるようになっておけ」とか言い出すから話がややこしくなるんだ。頭がいい人って普通のラインが分かってないから困るよね。全部クロロのせいだ。
『いつもありがとう、これからもよろしくお願いします』
本当は明日、ノブナガの誕生日になってから言うつもりだったのに。まあ、いいか。喧嘩したまま年を重ねてほしくはないし。あれ、なんかすごいいい彼女っぽい。
「……何その顔。クロロにジャポンの言葉教えてもらってたの」
「……いや……」
「笑いたかったら笑えよ!!」
「笑うなって言ったのはおめーだろ!」
目尻に涙を浮かべながら笑うノブナガに蹴りをいれる。恥ずかしい。どんどん頬が熱くなる。慣れないことはするもんじゃない。頬の熱を冷ますため部屋を出ようと立ち上がったところで腕を引かれ、私はぼすんとノブナガの膝の上に尻餅をついた。声には出さないもののまだ笑っていることがノブナガの身体の微妙な震えから伝わってきて、むしろこのまま斬り合いに持ち込むべきなのではないかとさえ思えてくる。
『ありがとな』
そのときぽつりと頭上から聞こえてきたのは、私が一番最初に覚えたその言葉で。思わず顔を上げようとした私の目は、ノブナガのごつごつとした手によって覆われる。その手がいつもより少しだけ温かくて、緩み始めた私の頬を見て「……笑うなよ」と言うノブナガの声は、とても優しいものだった。
この作品を共有

👏waveboxで拍手 💌フォームで感想
読んだよ!報告、感想とても嬉しいです!ありがとうございます!