黒羊咩咩 / kokuyoh meme

真夜中は純潔

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(150424) タイトルは椎名林檎の曲より



 名前の無い関係には慣れていた。お互いにとってお互いが都合のよい相手であればその関係は何のトラブルもなく成立したし、余計な気遣いが無い分ずっと楽。ただそれは相手もそれを理解していた場合の話で、そうでなかった場合待っているのは泥沼だ。そう、ちょうどこんな風に。

「お前シャルとも団長とも寝たのかよ」
「クロロは未遂よ、アンタが扉ぶち壊して飛び込んできたから」
「何が未遂だ!旅団全員とヤるつもりか!」
「失礼ね、女性陣とはまだ友達ラインだよ」
「死ね!」

 物凄い音を立てて目の前に飛んで来た瓦礫をひょいひょいと避けながら、普段から凶悪な顔がさらに凶悪になったジャージ姿の男を目で追う。情報屋として彼ら幻影旅団と関わりを持つようになってからしばらく経つが、その中でも積極的に仲を深めることになったのがこのフィンクスという名の男だった。ガサツでファッションセンスも眉毛もないこの男のどこに惹かれたのかと問われれば答えに窮するが、強いて言うなら他者には冷たいくせに一度懐に入るとコロッと甘くなるところだろうか。それにしてもこの男がこんなにも純情だとは思っていなかった。童貞でもなし、決してモテないわけでもないので(シャルやクロロと比べればまあアレだけど)それなりに男女の付き合いには淡泊だと思っていたのに。

「フィンだって先週綺麗なお姉様侍らせてたじゃない」
「あれは仕事だしあの女はすぐに殺した」
「えー!あんな美人を!?勿体ない!私に紹介してくれればよかったのに」
「テメエマジでいい加減にしろよ」

 馬鹿なわりに警戒心は強いらしく仲良くなるまでは少し時間がかかったものの、ある日美味しいお酒と料理を山ほど持ち込んでいい具合に出来上がってきたころにちょっとした事故でお酒を頭から被って服を脱いで見せたらそこから先はあっという間だった(フィンクスの名誉のために言うが、「あっという間」というのは過程の話で決して彼が早漏だったわけではない)。身体の相性も悪くなく、意外にも事後に少しだけ優しくなるタイプだということが発覚したのでそれからも定期的に会うようになったのだけれど。
 みんなを平等に愛するのがモットーの博愛主義者である私はフィンが留守の日に徹夜続きでイラついていたシャルの相手を頼まれれば引き受けたし、今日だって暇そうにしていたクロロにちょっかいをかけていたらそれとなくいいムードになったので押し倒してみた。クロロのシャツのボタンを外した始めたところで馴染みのあるオーラが近付いてきているなとは思った。それはまさか怒り全開のフィンクスがドアを壊して殴り込んでくるとは思っていなかったからで、私は私の下で珍しく肩を震わせて笑うクロロの様子を観察する暇も与えられずにフィンクスの攻撃を避けて廃墟の中を疾走する羽目になった。確かにフィンクスとはこの中で一番気軽に話せる仲だし、この中で一番一緒に寝た。それでも別にフィンクス以外と寝るなと言われたわけでもそんな約束をした覚えもないのだ。何故こんなにも怒られなければならないのか。

「え、ちょっと意味わかんないんだけど」
「うるせえ」
「ちょっと!暴力反対!私は脳筋フィンクス君と違ってか弱い頭脳派です!」

 瓦礫に足を取られながらもヒョイヒョイと攻撃を避け続けながら通路を進んでいると、目の前の壁にフィンクスの拳がめり込み思わず立ち止まる。これが噂の壁ドンか。思っていたよりバイオレンスだ。

「いたたた、ごめん!死ぬ、死んじゃうから!」
「お前はあと三回ぐらい死んどけ」

 抵抗する暇もなく両手を捻じりあげられ、私は大人しく降参の姿勢を見せる。しかし精一杯可愛い顔で謝ってみたのにフィンクスは力を緩めようとはせず、無い眉を寄せてギロリと私を見下ろした。ミシミシと音を立てる手首。このままだと間違いなく両腕粉砕コースで、パソコン相手の仕事で生計を立てている私にとってそれはかなりの痛手である。そう、腕だけに。

「ねえフィン、」

 痛みに歪みそうになる顔になんとか笑顔を浮かべ、私は目の前の男の唇の唇に噛み付くようにキスをした。そんな私の行動に驚いて目を見開いたフィンクスを真っ直ぐ見つめ、角度を変えながら何度も繰り返し唇を啄みながら僅かに開いた唇の隙間から舌を差し込み歯列をなぞる。それに気を取られたのか一瞬緩んだ腕の力。その瞬間を見逃さず、今度は逆にフィンクスの腕を取るとそのまま倒れ込むように反対側の壁へ自分より一回り大きな身体を押し付けた。

「っ、テメッ、」

 全体重をかけるようにして抑え込んでしまえば元々の力の差なんてどうってことない。私はか弱い頭脳派だ。人より少しばかり身体は鍛えているけれど。自分を見下ろすように密着する私を睨み付け、再び文句を言おうとするフィンクスの口をもう一度キスで塞ぐ。そのままの体制で両足を割り膝を使ってぐりぐりとその奥に刺激を与えると、フィンクスの肩がピクリと揺れた。

「何考えてんだ、こんなところで」
「部屋ならいいわけ?」
「違ェよ」
「フィンは私のこと嫌い?」

「嫌い」だなんて言えないことは分かっている。嫌いだったら私はとっくの昔に死んでいた……いや、もしかするとわざわざクロロの部屋に飛び込んで私を引き摺り出すなんてこともせず、こうやって顔を合わせることすらなかったかもしれない。単純明快強化系のフィンクスが考えていることなんて全てお見通し。フィンクスは私のことが好きなのだ。それもかなり本気で。

「言ってくれなきゃわかんない」

馬鹿みたいにぷうっと頬を膨らませてそう言うと、フィンクスは盛大に舌打ちをする。

「……次やったらぶっ殺す」

「なにを?」と聞いたら口をきいてくれなくなるのだろうか。不機嫌そうな表情とは裏腹に真っ赤に染まった耳を横目に、私はもう一度深いキスをした。





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