トレイ・クローバーとまるでダメな俺
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Twitterで呟いていた「名門魔法士養成校卒で自分の洋菓子店を持っている年下彼氏のトレイ・クローバーがめちゃくちゃ好きだが一緒にいると劣等感を煽られ死にたくなるので素直になれない俺と、愛情がないこともないがそれ以上に抗おうと必死に足掻きながらも自分にズブズブハマっていく俺が面白くて一緒にいるトレイ・クローバーの話」
卒業後、年上の恋人と同棲するトレイ。ネームレスなので呼び方に悩んだ結果、年上相手だから「お前」ではないだろうが「アンタ」はなんか違うので「あんた」になりました。まだちょっとしっくりこないけど暫定。
「アイツはほんっとーにすごい奴なんだよ……名門校出の才能溢れる魔法士だしぃ、あの若さで自分の店を持っててぇ」
「顔も頭も性格もよくて人望も厚いうえに世界一美味いお菓子を作るんだろ?」
「……なんで知ってんの?」
「この話を聞くのはもう三度目だからだよ。ほらもうちょい水飲めって」
言われるがまま、俺は目の前に差し出されたグラスに口をつけた。カランと氷が転がる音。喉の奥をよく冷えた水が流れ落ちていく感覚に、ふわふわしていた世界が少しだけ輪郭を取り戻す。
「もう着くって」
「なにが?」
「迎えだよ」
「迎え~?」
「そうそう、お前の大好きなトレイくんがもうすぐ着くって」
とれいくん。そう、トレイくんの話をしていたんだ。優秀で格好よくて最高の、俺の彼氏の話を。
「トレイはすごいんだよ~」
「その話はもう聞いた」
「俺はこんなにダメな人間なのに……」
「あっ! こら、もう酒は飲むなって」
「お、俺はぁ、この歳で仕事もクビになっちゃう、しぃ……」
手の中から奪われていくハイネケンの瓶を追いかけるように腕を伸ばし、そのままテーブルに突っ伏したまま喋り続ける。
「トレイは、俺なんかといないほうが幸せなんだよ~」
「おい、」
「……本当はもう俺のことなんて嫌いで、同情してるだけなのかも」
「なあって、」
だってアイツは優しいから。一度そう声に出してしまったら、もう止められなかった。悲しさと情けなさでどうしようもない気持ちになってきて、友人の咎めるような声が聞こえてもどんどん泣き言が零れ出していく。俺にはトレイじゃなきゃダメな理由が数えきれないほどあるけれど、きっとアイツにはそれがない。俺が若くて才能あふれるアイツを縛りつけ、自由と可能性を奪っているんじゃないか。そして聡いアイツはきっとそのことに気がついている。気がついてはいるが、人がいいから俺を見捨てられずに一緒に過ごしているんじゃないか。
「遅くなってすみません。思ったより道が混んでいて」
そんな俺の泣き言を断ち切るように発せられた、聞き覚えのある声。アップテンポなBGMと他の客たちの話し声が賑やかな店内でやけにクリアに聞こえたその低い声に、ヒュッと喉が鳴る。
「ああ、いや。こちらこそ悪いね、仕事終わりに。俺がついていながらこんなになるまで……」
息を止めたままおそるおそる顔を上げると、ウイスキー樽でできたテーブルの隣には想像通りの人物が立っていた。仕事場から直接やってきたのだろう。今朝、家を出たときと同じ、オフホワイトのタートルネックセーターと黒いスキニーパンツのうえからベージュのステンカラーコートを羽織った男。彼こそがいま俺が話をしていた人物であり、俺の彼氏である「大好きなトレイくん」だった。
「いえ。うちのがご迷惑をおかけしました」
俺の友人を見てニコリと微笑み、そう返事をするトレイ。その落ち着いた態度とは裏腹に、彼は一切俺と視線をあわせようとしない。一体どこから聞かれていたのかはわからないが、完全に怒らせてしまったらしい。先程までのアルコールによる多幸感はすっかり消え去って、俺の背中にじっとりと冷や汗が滲む。どうしよう。
「トレ……」
「帰るぞ」
優しい声色と、相変わらず俺を映さない瞳。ぴしゃりと告げられた言葉は、提案ではなく決定事項であるようだった。黙って頷きながら慌てて立ち上がれば、酔いが回って力の入らない身体がぐらりと傾く。
「おっと……ほら、つかまって」
そんな俺の身体は大きな手によって軽々と支えられ、そのまま抱きかかえるようにしてその場に立たされた。その掌の温もりと耳元で聞こえた労わるような声に、泣きそうになるのをぐっとこらえて頭を上げる。
「……悪いな、今日はつきあってくれてありがとう」
「……こちらこそ。また連絡するよ。……次は是非トレイくんも一緒に」
「……そうですね。今度は是非うちに来てください。簡単なつまみぐらいなら作れるので」
この状況で顔色ひとつ変えずに会話を続ける図太い神経を持つ男。だからこそいまだに俺なんかの友人でいられるのだろうが、二人のあいだに挟まれた俺の心はもうボロボロだ。全部俺が悪いとはいえ流石に居たたまれなくなってきて、俺は友人に向かってじゃあな、と短く告げると、トレイに肩を抱かれたまま出口に向かって歩き出した。
季節は冬。ホリデーを前に目いっぱい飾りつけられ温かな灯りの溢れる街の景色とは対照的に、頬を撫でる夜風は痛いほど冷たい。その寒さはアルコールで火照った身体には余計に沁みて、俺はコートの襟元に鼻先を埋めるように首を竦めてぶるりと身体を震わせた。
店のすぐ前に停められた、深緑色のミニ・クーパー。無言でドアが開かれた助手席に身体を滑り込ませて、緩慢な動きでシートベルトを締める。そして運転席のドアが開く音を聞きながら、大人の男二人には少し窮屈なこの中古車に乗り続けているのは俺のワガママだったなとぼんやり思う。
友人と飲んでいたパブから俺とトレイの暮らすフラットまで、車で約十分。いつもなら歩いて帰るその距離も、今日はやけに長く感じる。静まり返った車内の空気は重い。黙ったままちらりと運転席のほうへ視線を動かせば、表情のない横顔が目に入って胸の奥がギュッと締めつけられる。なにか言わなければ。でもなにを? まずは謝罪? その場合一体なんて言って謝るのが正解なのか? 窓の外を流れるイルミネーションを横目に頭を悩ませているあいだに、気づけば俺たちを乗せた車はアパートの駐車場に辿り着いていた。時間の感覚も感情も頭のなかも、全部ぐちゃぐちゃ。少し酔いは醒めたので「自分で歩けるから」と主張してみたが、トレイは握り締めた手を離そうとはしない。左手に温もりを感じたまま、俺は上昇していくエレベーターの液晶画面をぼんやり見つめた。
黙りこくったまま俺の手を引いてエレベーターからおりたトレイが、ガチャガチャと音を立てながら玄関の鍵を開ける。誰もいない真っ暗な部屋の空気は、不思議と外より冷たい気がして。俺は震える指で部屋の明かりをつけ、ヒーターの電源をいれた。
「……あの……なんか飲」
「俺がやるから。座ってて」
有無を言わせぬ態度でそう言われれば、俺は大人しくソファーに座るしかない。静まり返った部屋のなかには、トレイがやかんを火にかける音と時計の秒針の音だけが響いた。
「……熱いから気をつけて」
しばらくして、派手な模様が描かれたティーセットが目の前に置かれ、酸味を感じるさわやかな香りがふわりと鼻腔をくすぐった。旅行のお土産に揃いで買った、T2のティーセット。そこに注がれた少し赤みのある液体は、匂いからしてローズヒップティーのようだった。そういえば以前も酔い潰れて帰ったあとにこれが出てきた。確か肝臓がアルコールを分解するのにビタミンCが必要で、ローズヒップティーにはそれがたくさん含まれているんだとか言ってた気がする。昔は紅茶の種類なんてちっとも興味がなかったのに、トレイのおかげで随分詳しくなってしまった。
ゆっくりと、ソファーの隣が沈む。温かい紅茶を一口飲んで身体ごと隣へ向き直ると、ようやく小さなガラス越しに黄金色の瞳と目があった。
「……トレイ、その……悪かった」
「それは、何に対する謝罪?」
間髪入れずにそう返されると、あれだけ寂しさを感じていたのが嘘のように視線を逸らしたくなる。でもダメだ。ここで逃げたらダメだということぐらいは、流石の俺にだってわかる。
「お前のこと、好き勝手言って」
「例えば?」
「お……お前が俺に同情して付きあってる、とか……」
「なんでそう思った?」
「だって、」
お前と比べて、俺はあまりにもダメで情けない人間だから。そう口に出そうとして、息が詰まった。トレイは背が高くてイケメンで名門魔法士養成校を好成績で卒業するぐらい頭がよくて。まだ二十五歳とかなのに自分の洋菓子店を持っていて、作るお菓子はどれも最高に美味しいから人気もあって経営も順調で。素敵な家族がいて、友達も多くて、一緒に道を歩くたびストリートスナップのモデルを頼まれたりナンパされたりする魅力的な人間なんだ。それに比べて俺は目つきが悪い悪人顔で見た目はパッとしないし、魔法も使えずろくに学校にも行っていない。三十二にもなるのにまた仕事をクビになったし、かと言って家事が得意なわけでもない。親の顔は知らないし、友達と呼べる奴は今日一緒に飲んだアイツぐらいしかいない。
「だって?」
黙り込んで浅い呼吸を繰り返す俺の背中を、トレイがゆっくり撫でる。癇癪をおこした子供をなだめるようなその手つきに、俺の思考が爆発する。
「本当なら、俺はお前の隣に並んでちゃいけない人間なんだ。俺がお前と一緒にいてマイナスになることはあっても、プラスになることはない。お前に出会ったときからそう理解していたのに、俺はお前を諦められなかった」
ダメだと思うのに、言葉が溢れて止まらない。トレイがどんな顔をしているのか見るのが怖くて、膝の上で握り締めた拳を睨みつけながら息を吸う。
「お前はすごい奴で、幸せになるべきで、でもそこに俺がいると邪魔にしかならない。俺はお前が好きだけど、たまにお前が眩しすぎて死にたくなるんだ。なにもできない自分がみじめで。そんな風に思ってしまうこと自体情けなくて」
ぽたり、とデニムに雫が落ちる。酒を飲んで勝手に劣等感に苛まれて感情を爆発させて。挙句の果てに七つも年下の男の前で泣いている。どうしようもないくらいダサくて、格好悪い。
「で、でも俺はやっぱりお前が好きで、」
ずび、と鼻を啜りあげると、温かな手のひらが膝の上の手を包み込み、固く握り締めた拳を解すように指を一本いっぽん開いていく。綺麗で美味しいものをたくさん生み出す、魔法の手。手のひらに食い込んだ爪の痕を親指でするりと撫でられて、身体が震える。
「どこから話をすればいいかな」
静かな声に促されるように顔をあげれば、俺をまっすぐ見つめる蜂蜜色。困ったように眉尻を下げて微笑むトレイを眺めていると、「おいで」という囁きとともにその太い両腕が俺の身体を持ち上げた。
「まず第一に、俺はあんたに同情なんてしていない」
向きあうように膝の上に座らされ、鼻先が触れあうほどの距離で言い聞かすようにそう告げられる。いつのまにかがっしりと俺の腰に回されている左腕に目を白黒させていると、もう片方の手が視線を固定するかのように俺の頬に添えられた。
「第二に、俺はあんたの思っているほどできた人間じゃない」
思った以上に正直に洗いざらいぶちまけてくれたから言うけれど、俺は同情で他人と付き合うほど親切ではないし、あんたが俺を想ってくれているのと同じくらいあんたのことを想っているかと言われると正直微妙だ。
続けて聞こえたそんな言葉に、やっぱりそうなんだと思う。傷ついたわけではない。どちらかというと、納得したというほうが正しいのだと思う。トレイと出会い、ともに暮らしはじめてもうすぐ一年。それでもトレイと俺のあいだには壁があった。いや、うすぼんやりとした膜のようなものだろうか。一緒に住むことを承諾してくれるくらいなのだ、トレイが俺に好意を抱いてくれていることはわかっていた。しかしトレイに対する自分の想いが肥大すればするほど、その膜の存在を強く意識するようになっていったのだ。それは会話をし、ともに飯を食い、セックスをしても変わらない。人によってはこれを温度差と呼ぶのかもしれない。でも俺はそこにはとくに不満を抱いたことがなかった。だって俺とトレイは「違う」人間だから。そもそも同じであるはずがないのだ。
「なんとなく何を考えているかわかるから言うが、これは相手があんただからじゃない。むしろ昔からの性分というか……とにかく、こんなにすぐ一緒に住みはじめたのも、こんなに長く一人の相手と付き合ったのもアンタが初めてのことだ」
予想外の告白に思わず「えっ」と声を漏らすと、やっぱりなとでもいう風にトレイがわずかに目を細めた。
「第三に、俺はあんたに幸せにしてもらう必要はない」
何故ならもうすでに幸せだからだよ。耳元で囁かれたその言葉の意味を俺の脳みそが処理する前に、ニヤリと笑ったトレイがキスで俺の口を塞いだ。
「ッ……」
咄嗟に後退ろうとするのを予想していたかのように、腰に回された太い腕にぎゅっと力が込められる。
「トレ、」
混乱したまま口を開いた瞬間、歯列をこじ開けるように思いきり舌を挿し込まれる。自分でできると言っているのに、毎晩トレイによって磨かれている俺の歯。その歯並びを確かめるようにねっとりと舌先で撫でられれば、まるでなにかのスイッチを押されてしまったみたいに俺の身体から力が抜けていく。
「ん……ッ」
角度を変え、何度も深い口づけを繰り返しながら舌の根を吸われ、かろうじてトレイのニットの端を握り締めている以外は完全に無力になってしまった俺を見て、トレイが喉の奥で低く笑う。眼鏡の奥の宝石に宿った甘い熱の正体を、俺はよく知っていた。
「あ、」
ようやく口での呼吸を許されたかと思えば、首筋に啄むような柔らかなキス。同時に骨張った手がケーブルニットの裾を捲ってシャツの中まで侵入し、俺の脇腹をまさぐりはじめた。
「……硬くなってる」
よく鍛えられたトレイの身体とは違う薄い脇腹を這っていた手が、その手の動きだけで期待に立ち上がりはじめていた俺の乳首をぐりぐりと押し潰すように刺激する。
「や、」
「ここ、好きだもんな」
「ちが、あ……っ」
そのままそこをかぷりと甘噛みされ、思わず小さく声を漏らした。するとそれに気をよくしたように、トレイはそのツンと尖った先端を舐め、舌先で押し潰し、唇の狭間で吸い上げる。
「ん、あっ……待っ」
身体の中心を駆け抜けた甘い痺れから逃れようと、俺が反射的に腰を浮かせたのをトレイは見逃さなかった。手際よくデニムのボタンを外してジッパーを下ろした手が、そのまま下着ごと俺のデニムを脱がせにかかる。もちろんトレイの膝の上に跨るようにして膝立ちしているのでそれは途中で止まってしまうのだが、脱げかけの下着をぐしょぐしょに濡らすほど興奮していた俺の昂りは、トレイの目の前で露わになってしまった。
「あ……っ!」
トレイの手が、少し硬い手のひらが、俺のモノを扱く。強すぎる快感に、その厚い胸板に縋りつくようにしてギュッと目を瞑れば、ふわりと甘いバニラの香りが鼻先を擽った。途端に脳裏に浮かぶ、真っ白なコックコートに身を包んだトレイの姿。フルーツを切り、生地を混ぜ、クリームを泡立てるあの手が、俺に触れている。あの宝石のようなタルトを生み出す魔法の手が、俺の欲望を握り込み、にちにちといやらしい音を立てている。何度経験してもなれないすさまじい背徳感と、一匙の優越感がそこにはあった。
生まれたての小鹿のようにガクガクと震える膝。ついに体勢を保っていられなくなってトレイの首にしがみつくようにしてその身体にもたれかかれば、片手でひょいと腰を持ち上げられる。そしてそのまま手際よく下着とデニムを引き下ろされて、俺の下半身には白い靴下だけが残された。
「なあ……っ、これ、や……だ、ァ」
剥き出しの尻を突き出したような体勢で抱えられ、カッと顔が熱くなる。粗相をした子供じゃないんだから、いくらなんでもこんな格好あんまりだ。羞恥でじわりと滲む視界で精一杯トレイを睨みつけながら、抗議の声をあげる。そんな俺の必死の思いが届いたのだろうか。
「……こら、暴れたら危ないだろ」
視界が反転して、背中に柔らかな感触。自分の身体がソファーに横たえられたのだと気づいたのは、俺を見下ろしながら自身のベルトに手をかけるトレイの姿を視界に捉えてからのことだった。
「……子供の頃、優しさを間違えて大事な友達を傷つけてしまったんだ」
するりと抜き去ったベルトを床に投げ捨て、トレイがデニムのボタンを外してジッパーを下ろす。これからお前を抱くという宣言にも似たその行動とは対照的に、彼の口から零れ出したのは悲しい昔話で。
「だからもう二度と同じ過ちを犯すことがないよう、人との付き合い方を考え直すことにした」
トレイがずるりとデニムをおろすと、黒い下着のなかでくっきりと形がわかるほど滾ったそれが目に入る。あれがほしい。目の前のこの男を呑み込んで、俺だけのものにしてしまいたい。もう何度も受け入れたその熱の形を覚えているとでもいうように、俺の後孔がはしたなくヒクついた。
「……それなのにあんたは、」
いつのまに取ってきたのだろう。ひんやりとした液体をどろりと下腹部に垂らされて、俺は小さく叫び声をあげた。
「……ん、あ、あっ」
ぬるぬるとしたそれを掬いあげた指先が俺のなかへと侵入し、その奥を暴こうと蠢く。話の続きが気になるのに、俺の善いところを知り尽くした指に敏感な場所を擦りあげられるとただ喘ぐことしかできない。
「……あんたのその目は、」
俺と一緒にいることでいくら自分が傷ついても、好きだと叫ぶことをやめないから。
苦しそうで、どこか満足げな声。熱に浮かされた頭で必死にトレイの話を理解しようとしたところで、それまでとは比べ物にならないほど太く熱い猛りが俺を貫いた。
「ああ、あッ……!」
思考は一瞬で快楽に乗っ取られ、俺は悲鳴に近い声をあげながらトレイを呑みこんでいく。ひときわ太い部分でこじ開けられ、指では届かなかった奥を一気に暴かれると、俺の口から唾液が零れた。
「あ――ンあ、トレイ、ああっ」
「俺もかなり面倒臭い人間だという自覚はあったが……今日のことで少し考えを改めたよ」
ずるりと幹が引き抜かれ、また最奥まで押し込まれる感覚。入り口で引っかかる先端の太さも、その竿に浮き出た血管の膨らみも、自分では届かない場所まで抉る全長だって、全てこの一年の間に覚えさせられたものだ。
「俺の気持ちは十分伝えているつもりだったが、伝わっていなかったみたいだし」
「なに、ああっ、んあっ」
角度を変えて乱暴になかをかき回されても、俺のなかは抵抗する素振りすら見せずにその猛りに吸いつくように包み込む。ガクガクと揺さぶられながら緑色の頭をかき抱くと、そのまま首筋にチュッと音を立てて吸いつかれた。首から鎖骨へ、そしてそのままニットの襟元を引き下げ胸元へ。乾いた唇が肌を掠めるたび、身体の奥で小さな熱が爆ぜる。
「そうだな、例えば今日あんたが泣きついたのが、俺じゃなくアイツだというのが気に食わない」
顔を上げ、ズレた眼鏡を直したトレイが俺の下腹部に手を伸ばす。
「あっ、待っ……ひ、あッ……!」
ナカへの刺激だけでパンパンに張りつめていたそこは、トレイの手で直接的な刺激を与えられた瞬間に限界を迎えた。あまりにも強い快感。一瞬呼吸が止まってしまい、酸素を求めてはくはくと口を動かす。無意識のうちになかを締めつけていたのだろう。トレイが腰の動きを中断して、耐えるように眉間に皴を寄せるのが見える。ビクビクと全身が揺れ、じわりと腹の上に温かいものが広がる感覚。それを塗り込めるように再び性器を扱かれると、いま達したばかりのそれはまたゆるりと首をもたげはじめる。
「トレ、あ、ンっ、」
「恋人に同情で付きあってるって言われることが、あんなにムカつくなんて知らなかったよ」
フッと自嘲気味に笑う声。吐精したばかりで敏感になった先端を手のひらで転がすように刺激されながら、同時にゆるやかな抽送を再開されて、俺はハ、ハ、と必死で息を吸いながらトレイを見上げた。
「でもあんたが「お前を諦められなかった」って言ったときは嬉しくて……ほっとしたんだ」
涙でぼやけた視界の中心で、とろけた蜂蜜がキラキラ光る。ああ、やっぱり眩しいよお前は。
「トレイ、」
「……好きだよ」
少し掠れた、静かな声。
「それがあんたの言う好きと同じかどうかは……まだ自分でもわからないけど。俺は俺なりに、あんたのことが好きだ」
腹のなかが燃えているんじゃないかと思うほど全身が熱くて、俺の目からとめどない涙がぽろぽろと零れた。悲しかったわけではない。ただ怖いほど幸せだった。
「トレイ、」
「ああ」
「トレ……とれ、い」
「……ん、ほら」
ぐずる子供のように手を伸ばして名前を呼べば、トレイが困ったように笑いながら抱き締めてくれる。しかしそうしながらも俺の身体を揺さぶる手が止まることはなく、俺はみっともなく泣きながら喘ぎ続けた。
小さなソファーの上で二人、ずり落ちそうになりながら、俺たちは足りなかったなにかを埋めあうようにお互いを貪りあう。気づけば全身しっとりと汗をかいていて、ヒーターは必要なかったな、なんてぼんやり思う。だんだんと激しくなる抽送。汗と俺の精液で、二人のセーターはドロドロに汚れてしまっている。浅い呼吸の合間に、トレイが耳元で俺の名前を呼びながらひときわ深く腰を穿った。
ドクンと身体が震え、トレイがグッと息を詰める。同時にはらの奥で熱が爆発する感覚。ゴムに包まれたそれを吸い取ろうとでもするかのように、俺の体内がきゅうっと戦慄く。
部屋の中に響く二人分の呼吸。しばらくそうして抱きあったまま息を整えたあと、トレイがずるりと俺のなかから出ていった。そのわずかな刺激さえ快感に変換してしまいそうなところを必死に耐えて、ふうっと大きく息を吐く。
「……トレイ」
「ん?」
少し掠れた声で「なんでもない」と返事をすれば、なんだそれと呆れたように笑われる。
いつもと変わらぬ、穏やかな声。でももう俺は、その蜂蜜色の宝石がとろりとほどけた甘さを知っている。
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