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▽2022年6月17日
<1432文字>
悪食
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ドンッとなにかが爆ぜるような音とともに、グラスの中の琥珀色の液体がわずかにさざ波立つ。同時に感じる、なにか大きな力が蠢く気配。この魔法舎で暮らすどの魔法使いとも異なるそれは、秘匿されたこの空間への侵入者が現れたことを示していた。燻製にしたレインディアをつまみに一杯やりかけていたネロは、小さく舌打ちをして部屋を飛び出す。
「なあ、今……」
「ああ。食堂のほうだと思う」
同じように侵入者の気配を感じたのだろう。階段を下りた先で出会ったシノと短く言葉を交わし、食堂に向かって歩みを進める。
「賢者さんは?」
「ぐっすり眠っているようだったから、ヒースたちがついてくれている」
あの揺れで目を覚まさないとは、と少し驚きつつ、いつだったか彼が「地震には慣れてるんですよね」と笑っていたことを思い出す。
よりにもよって人がみな出払っている今日、侵入者が現れるなんて。しかも結界を壊すほどの力を隠そうともしないような相手が。食堂に近づくにつれ、濃くなってくる「力」の気配。向こうも俺たちが近づいてきていることには気づいているはず。それなのに逃げも隠れもしないということは、よほど自分に自信があるか何も考えていない馬鹿かのどちらかで、相手が魔法使いの場合どちらも同じように最悪だ。
「奥だな……」
誰もいない夜の食堂はとても静かで、その分その奥の調理場内にいる「誰か」の気配がまっすぐこちらに伝わってくる。例えるならば飢えた獣のようにギラギラとしたその気配は、決して友好的なものではないのにも関わらずどこかネロにとって懐かしいものだった。
「……開けるぞ」
大鎌を構えたシノがこくりと頷いたのを確認してから、調理場へと続く扉を開く。
「……血?」
薄暗い調理場の床に広がる、てらてらとした赤い液体。しかし鼻腔をくすぐるさわやかな酸味のある香りが、その正体を教えてくれた。
「……いや、あれはトマトだ」
どうして昨日買ったばかりのグランデトマトがこんな姿に。目の前に広がる大惨事に気を取られたそのとき、冷蔵庫の扉の陰で何かが動いた。
「待てっ、シノ!」
「わっ! いててて!」
静止の声よりも速く地面を蹴り、「なにか」を制圧するシノ。驚くべきことに、地面にねじ伏せられて情けない悲鳴をあげていたのは、ネロのよく知る相手だった。
「あんた……」
「ネロ!」
伸び放題の髪の奥からじっとこちらを見上げる、晴れた空のように澄んだ青い瞳。大きな声でネロの名前を呼んだその生き物の手を、眉間に皺を寄せたシノが容赦なく締め上げる。すると床に這いつくばったその懐から小さな白い骨がバラバラと溢れ出てきたものだから、思わずシノと顔を見合わせた。
「これは……」
「……フライドチキンだな」
そう言って二人の後ろに散らばる白い皿に視線をやれば、シノは拍子抜けしたような顔で目の前の生き物を見つめた。
「ネロ」
静まり返った厨房に響く、情けない声。
口の周りを油とソースでベタベタにしたその侵入者は、ネロの顔を見上げて大きな腹の音を響かせた後、そのままめそめそと泣き始めてしまった。
畳む
みたいな感じで生き物も魔法も「なんでも食べる」悪食の魔法使いが、ネロの料理で味というものを知り、彼が店を閉めたあと今まで食べていたものが食べられなくなってしまって匂いを頼りに追いかけてきた話。
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ドンッとなにかが爆ぜるような音とともに、グラスの中の琥珀色の液体がわずかにさざ波立つ。同時に感じる、なにか大きな力が蠢く気配。この魔法舎で暮らすどの魔法使いとも異なるそれは、秘匿されたこの空間への侵入者が現れたことを示していた。燻製にしたレインディアをつまみに一杯やりかけていたネロは、小さく舌打ちをして部屋を飛び出す。
「なあ、今……」
「ああ。食堂のほうだと思う」
同じように侵入者の気配を感じたのだろう。階段を下りた先で出会ったシノと短く言葉を交わし、食堂に向かって歩みを進める。
「賢者さんは?」
「ぐっすり眠っているようだったから、ヒースたちがついてくれている」
あの揺れで目を覚まさないとは、と少し驚きつつ、いつだったか彼が「地震には慣れてるんですよね」と笑っていたことを思い出す。
よりにもよって人がみな出払っている今日、侵入者が現れるなんて。しかも結界を壊すほどの力を隠そうともしないような相手が。食堂に近づくにつれ、濃くなってくる「力」の気配。向こうも俺たちが近づいてきていることには気づいているはず。それなのに逃げも隠れもしないということは、よほど自分に自信があるか何も考えていない馬鹿かのどちらかで、相手が魔法使いの場合どちらも同じように最悪だ。
「奥だな……」
誰もいない夜の食堂はとても静かで、その分その奥の調理場内にいる「誰か」の気配がまっすぐこちらに伝わってくる。例えるならば飢えた獣のようにギラギラとしたその気配は、決して友好的なものではないのにも関わらずどこかネロにとって懐かしいものだった。
「……開けるぞ」
大鎌を構えたシノがこくりと頷いたのを確認してから、調理場へと続く扉を開く。
「……血?」
薄暗い調理場の床に広がる、てらてらとした赤い液体。しかし鼻腔をくすぐるさわやかな酸味のある香りが、その正体を教えてくれた。
「……いや、あれはトマトだ」
どうして昨日買ったばかりのグランデトマトがこんな姿に。目の前に広がる大惨事に気を取られたそのとき、冷蔵庫の扉の陰で何かが動いた。
「待てっ、シノ!」
「わっ! いててて!」
静止の声よりも速く地面を蹴り、「なにか」を制圧するシノ。驚くべきことに、地面にねじ伏せられて情けない悲鳴をあげていたのは、ネロのよく知る相手だった。
「あんた……」
「ネロ!」
伸び放題の髪の奥からじっとこちらを見上げる、晴れた空のように澄んだ青い瞳。大きな声でネロの名前を呼んだその生き物の手を、眉間に皺を寄せたシノが容赦なく締め上げる。すると床に這いつくばったその懐から小さな白い骨がバラバラと溢れ出てきたものだから、思わずシノと顔を見合わせた。
「これは……」
「……フライドチキンだな」
そう言って二人の後ろに散らばる白い皿に視線をやれば、シノは拍子抜けしたような顔で目の前の生き物を見つめた。
「ネロ」
静まり返った厨房に響く、情けない声。
口の周りを油とソースでベタベタにしたその侵入者は、ネロの顔を見上げて大きな腹の音を響かせた後、そのままめそめそと泣き始めてしまった。
畳む
みたいな感じで生き物も魔法も「なんでも食べる」悪食の魔法使いが、ネロの料理で味というものを知り、彼が店を閉めたあと今まで食べていたものが食べられなくなってしまって匂いを頼りに追いかけてきた話。
#まほやく #夢小説 #ネタメモ