1. 永遠

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僕が学生時代の寮の先輩であるルーク・ハントと再会し、永遠になる話。
成分表:ネームレス男主夢 | 非合意の薬物使用 | 不穏


「久しぶりだね」

 仕事終わりに馴染みのパブでエールを飲んでいたところでそう声をかけてきたのは、魔法士養成学校時代に同じ寮に所属していた先輩だった。美しいブロンドの髪と、細身ではあるがしっかりと筋肉のついた身体。卒業してからもう十年以上経つというのにすぐに彼だとわかったのは、ティーンの幼さが抜けた精悍な顔つきの中で変わらずに涼やかに輝くエメラルドの瞳のおかげだった。
 いわゆる上流階級の人間が多く在籍する寮に振りわけられ、なんとなく居心地の悪さを感じながら学生生活を送っていた僕になにかと目をかけてくれたのが彼だった。母国語を交えて少し特徴的なアクセントで話をする彼は、格式高い寮の副寮長とは思えないほど朗らかで、いつも好奇心に目を輝かせて楽しそうにしていたのを覚えている。
 思い出話に花が咲き、近くに住んでいるという先輩の家で飲み直すことになったのが夜の十時頃。町の中心部から少し離れた場所にある一軒家で、彼は暮らしているようだった。
 「お邪魔します」と呟きながら玄関のドアを通って、リビングルームへと向かう背中を追いかける。キチンと整頓された室内。その壁に飾られた狩猟道具や革製品に学生時代の先輩の部屋を思い出し、懐かしい気持ちになる。普段から人をよく招いているのか、先輩のパルファムに混ざって香る複数のにおい。思えばこうして誰かの家を訪ねるのは久しぶりのことだった。
 赤ワインのボトルとグラスを手にした先輩が、リビングルームの奥から戻ってくる。ズッ……と二階でなにかが這うような音。不思議に思って「この家にはご家族と?」と尋ねてみたが、「Non! ずっと一人で住んでいるよ」とにこやかな笑顔で返された。久しぶりの再会が楽しくて、いつもより酔いが進んでいるのかもしれない。

「そういえばまだ写真は続けていらっしゃるんですか?」
「光栄だな、覚えていてくれたのかい?」
「当たり前じゃないですか。僕が写真を撮り始めたのはルークさんがキッカケなので」

 そう言いながら、手帳の中から一枚の写真を取り出す。林檎の木の下で熱心に本を読む十代の僕の横顔が映ったそれは、学生時代に彼が撮ってくれたものだった。

Genialなんと! まだそれを持っていたんだね」
「これは……僕の宝物ですから」

 周りに馴染めず落ち込む僕にこれを手渡しながら彼が言った「無理に自分を曲げる必要などないよ。羽化を待つ蛹と同じ。キミの美しさは今この瞬間にもキミの中で育まれているのだから」という言葉。それは寮内での「美」という形のないものの扱いに悩んでいた僕の心を軽くしてくれた。
 懐かしさに浸りながら、グラスに注がれた赤ワインに口をつける。芳醇な葡萄と咲き誇る花のような優しい香りを楽しんでいると、頭上でドサリと質量のあるものが動く音。

「ルークさん、二階でなにか飼ってらっしゃるんですか?」
「気になるなら、見てみるかい?」

 「いいんですか?」と立ち上がろうとした足に力が入らず、その場で崩れ落ちた僕の身体を先輩が抱きとめる。あの頃よりも随分と厚くなった胸板。「すみません」と言いたいのに、舌が麻痺したように動かない。

C'est magnifiqueああ、やはり素晴らしい! やはり私の勘は正しかった」

 指先で僕の顎を持ち上げじっくり眺めながら、先輩が目を細める。嬉しそうなのに、どこか冷たい緑色の双眸。

「このワインのように、キミの美は三十年で完成する」

 先輩の白い指先がワインのラベルに刻まれた数字をなぞる。僕の生まれた年と同じ、四ケタの数字。

「少し生活が乱れているようだけれど……一週間もあれば完璧な状態に戻せるだろう」

 頭がぼんやりとして、彼がなにを言っているのかよくわからない。身体は鉛のように重いのに、僕の心はふわふわとして不思議と凪いでいた。
 遠のく意識の中で、カメラを構えた先輩の言葉を思い出す。写真は瞬間的な美しさを永遠に留めることができるんだよと笑う、彼の冷たい瞳を。

 そうして僕は永遠になった。
 




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