3. 自由落下の甘い罠

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突然空から降ってきたルーク・ハントに翻弄される俺の話。
成分表:ネームレス男主夢 | 他寮の先輩


 空から人が落ちてきた。比喩ではなく、物理的にだ。
 目の前でくるりと回転する身体と、ふわりと広がる金色の髪。咄嗟にマジカルペンを構えてその場から飛びのけば、ソイツは猫のように静かに着地し俺を見上げた。

Excusez-moi失礼を!」

 耳障りのいい、朗らかな声。緑色の目をしたソイツは、唇だけでニコリと笑うと地面を蹴って校舎があるほうへ向かって駆けていく。
 一体今のはなんだったんだ。マジカルペンを握りしめたままその場で立ち尽くしたのが先週の頭のこと。

「Bonjour!」
「はいはい、Bonjour、ルーク」

 あれから毎日、ルーク・ハントと名乗った男が俺の前に降ってくるようになった。
 早朝廊下を歩いているときだったり、放課後部活へ向かっているときだったり、時間はバラバラ。しかしルークは決まってどこかから落ちてきて、俺に一声かけたら満足そうに去っていく。
 最初こそ喧嘩を売られているのかと思ったが、危害を加えてくる様子もない。考えるのが面倒になって適当に挨拶を返しているうちに、この不思議な関係にもすっかり慣れてしまった。
 ところかまわず落下してくるルークと関わり始めてもう二週間になるのかと、少し感慨深い気持ちすら抱き始めていたのが今朝のこと。
 授業を終え、部活動に行き、勉強をしたあと部屋のベッドでのんびりくつろぎはじめて気がついた。今日はまだアイツに出会っていない。
 ついに飽きたか?名前と所属している寮しか知らない赤の他人と言っていい相手のはずなのに、少しだけ寂しいような気がするのが不思議だ。
 夏の初めとはいえ、窓から吹き込む夜風はまだ冷たい。
 眠りにつく前に施錠をしようと窓に近づいたそのとき。俺の視界いっぱいに、見慣れた金色が広がった。

「……Excusez-moi失礼!」

 重力に従って背中から後ろに倒れていく俺の腰に回された、太い腕。ボール・ルームで手をとりあうダンサーたちのように、俺たちはお互いの顔を見つめた。

「Bonsoir」
「びっ……くりしたあ」
「夜遅くにすみません。今日は日中お会いできなかったので」
「いや、別に約束してるわけじゃないし」

 「別に無理に会いに来なくてもいいのに」と続けようとするのを遮ったのは、いつもより少し低い「おや」という声だった。

「Je ne te manque pas?」

 ルークがよく口にする、俺の知らない不思議な言葉。どういう意味かはさっぱりわからないが、揶揄うように細められた視線のおかげでなんとなくなにを言われているのか想像がつく。

「俺を口説き落としたいなら、もうちょっと頑張りな」

 くるりと身体を捩って腰を支えていた腕の中から抜け出して、ツンと尖った鼻先を軽く指でつまんでやる。途端にパッと明るくなったルークの顔。

「Beaute!」

 初めて目にした春先に蕾がほころぶようなルークの柔らかい微笑みに少しだけドキッとしたことは、俺の胸の中にしまっておこうとおもう。
 




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