11. FOCUS
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Twitterで呟いていた「勇気を振り絞ってルーク・ハントに絵のモデルを頼んだら快諾されたんだけどその代わりにポートレートのモデルを頼まれ初めて被写体になってみた僕、レンズ越しなのに全てを見透かされているようで部屋に帰ってちょっと泣いたしだいぶ抜いた」話。
成分表:ネームレス男主夢 | 同じ寮の後輩 | 自慰表現
一目見た瞬間に、どうしてもこの人の絵を描きたいと思った。でも僕には彼の気を引けそうな耳や尻尾は生えていないし、卓越した美しさもない。僕ができるのは、ただひたすらに絵を描き続けることだけ。物心ついた頃にはすでにそうだったし、きっとこれからもそうやって生きていくんだと思う。何故絵を描くのかとか、絵を描いてどうしたいのかとか、そんなことは考えたこともなかった。鳥が空を飛び、魚が水の中を泳ぎ回るように、僕は絵を描いた。
幸運にも両親はこんな僕を否定することなくサポートしてくれたから、これまでも美しいものや素晴らしいものはたくさん目にして育ってきた。でも、絵を描くこと以外でこんなにもなにかに心を奪われたのは、これが初めてのことだった。
彼の名前は、ルーク・ハントといった。ポムフィオーレ寮の三年生で、副寮長をしている。美しい歌声を奏でるカナリアのように鮮やかなブロンドの髪に、希望に満ちた瑞々しいグリーンの瞳。校内で彼の姿を見かけるたびに、その記憶の欠片をかき集めては筆をはしらせる日々を送ってきた。
だから偶然彼と直接言葉を交わす機会に恵まれたとき、僕は柄にもなく舞い上がっていた。植物園でスケッチブックと向きあっていたとき、急に頭上に影が差したことを不思議に思って顔を上げた。するとあの宝石のような緑色がじっと僕のことを見つめていたんだ。舞い上がるなというほうが無理な話だ。だからろくに挨拶もせずに「僕の絵のモデルになってもらえませんか」と詰め寄って、彼に笑われるはめになってしまった。
「構わないよ。なんなら、今ここで始めてもいい」
僕の一世一代の告白にさらりとそう返されて、彼の気が変わらないうちにと慌てて鉛筆を握りしめたのが二週間前のこと。結局そのあとも何度か僕の我儘に付きあわせることになり、お礼になにかできることはないかと尋ねた結果。いま僕は自室のベッドに腰かけ、ルークさんと向かい合っていた。
「……すみません、その……被写体になるのは慣れていなくて」
「ああ、楽にして……とキミの部屋で言うのもおかしいかな」
冗談めかしてそう言われ、少しだけ緊張が解ける。絵のモデルを引き受ける代わりにポートレートのモデルになってほしいと言われたときには驚いた。ルークさんが趣味で写真を撮っていることを知らなかったということもあるが、まさか自分が「見られる」側になるなんて想像もしていなかったのだ。
「これ、全てキミが?」
「はい。僕にはこれしかないので」
二人部屋の片側、僕に割り当てられたスペースに散乱する、紙束や画材。実はこれでも片付いているほうなのだけれど、憧れの人が来ることがわかっていたらもう少しなんとかしたのにと恥ずかしくなる。
僕の緊張を解すためなのだろう。軽く雑談をしながら、ルークさんが撮影の準備にとりかかる。学園のことや、僕の作品のこと。耳障りのいい低い声が奏でる言葉に耳を傾けていると、少しずつ肩の力が抜けていくのがわかる。植物園で初めて会話をしたときにも思ったが、ルークさんは人の話を聞くのがうまい。僕が何気なく口にしたようなことも覚えているし、どんな小さなことでもそれがいかに素晴らしいか言葉を尽くして褒めてくれる。言葉でなにかを表現するのが苦手な僕にとって、そんな彼は少し眩しい。
革手袋に覆われた手が大きなレンズを付け替えるのを眺めていると、ついに撮影が始まった。部屋のなかに響く、シャッターの音。そういえば今度魔法史のテストがあって、と世間話を続けていると、不意にぞわりと肌が粟立ち口を噤んだ。
顔を上げると、真っすぐ僕を見据える黒い機体。その中心、丸いレンズ越しに、ルークさんが僕を見ていた。写真を撮っているのだから、見られているのなんて当たり前だと思うだろう。しかし確かにそのとき、黒々としたレンズ越しに目があったのだ。あの冷たい光を宿した瞳が僕を暴こうとしていることが、わかったのだ。
そして同時に、僕は気づいた。ああ、そうか。僕はこの目が好きなんだと。
ただ座っているだけなのに、僕の心臓はその場で弾けそうなほど高鳴って、額にはじわりと汗が滲んだ。それからしばらく撮影は続いたが、実のところよく覚えていない。僕はとにかく嬉しくて、こわくて、興奮していた。その熱は撮影が終わってルークさんが部屋から出ていったあとも収まらず、僕は泣きながらスケッチブックいっぱいに絵を描き殴り、それから頭から布団をかぶって何度も抜いた。あの相手の全てを見透かしたような、緑色の光を思い出しながら。
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